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iSIMとは?技術革新とビジネスインパクト

iSIM技術の概要

iSIM(Integrated SIM)とは、従来の物理的なSIMカードに代わって、セルラーモデム内に統合された電子的なSIMカードのことです。iSIMは既に標準化されており、各キャリアでの採用が始まっています。

iSIMは、従来のカード型SIMからeSIM(チップ型SIM)への変化を経て、現在最も注目される規格です。コンセプトは、セキュリティを維持しつつ、セルラーモデム/SoC(System on Chip:1つの半導体チップの上に、ある装置やシステムの動作に必要な機能を実装したもの)とSIMが一緒になることで、セルラー通信と認証が統合されます。

ソラコムがご提供するiSIMは、eSIMと同様に物理的なSIMカードを交換する手間がなく、リモートでデータプランやキャリアを変更できるため、利便性が向上します。さらに、eSIMよりもデバイスの設計を簡素化し、基板に取り付ける部品点数とスペースを節約することができます。

eSIMとiSIM、ソフトウェアSIMとの違い

まずはじめに、セルラー通信搭載のデバイスを開発する際には、モデムとSIMという2つの部品が必要になります。モデムは、通信回線を用いてデータを送受信できるようにする部品、SIMはセルラーネットワークに安全に接続するための認証情報が格納された部品です。SIMについての説明は、別ページを参照下さい(SIMとは?

SIMには、差し込むタイプのカード型SIMと、基板に組み込むチップ型SIM(eSIM)があります。耐衝撃性や温湿度などの環境耐性を求められる各種産業機器、より小型化が必要なコンシューマー機器では、eSIMが採用される傾向があります(参考: eSIMとは?)。

eSIMとiSIMの違いは、主に物理的な観点での実装方法にあります。eSIMでは、セルラーチップ、モジュール、モデムと基板を物理的に接続し、はんだ付けが必要でした。

一方、iSIMでは、SIMの機能がモデム内に統合されているため、物理的な実装が簡素化でき、複数の部品を物理的に結線する必要はありません。一方で、SoCの中に、安全性が高く、独立したハードウェア領域があり、その中にSIMの持つ認証などの情報が格納されます。この構成はGSMA(GSM Association:通信事業者と関連企業で構成される業界団体)で標準化されており、グローバルで統一の定義で開発・運用されています。シンプルかつ安全性が高いというのがiSIMの特徴です。

iSIMとeSIMの違い - IoTプラットフォームSORACOM

ソフトウェアSIMは、各ベンダーが専用のハードウェアを伴わない独自のソフトウェアソリューションとして実現しており、セキュリティやプロファイル生成などの細かい部分は定義されていない状況です。今後、標準化が進むことで明確な定義が出てくる可能性がありますが、現時点ではiSIMとは別のテクノロジーです。

iSIM採用のメリット

iSIMによって、IoTの活用シーンがさらに広がります。例えば、IoT機器の小型化に伴い、基板のスペースやサイズが重要になっています。特にヘルスケアデバイスやウェアラブルデバイスでは、製品サイズが使い勝手やデザインの自由度に影響します。デバイスの小型化は消費電力の提言、処理能力を向上、デバイス自身の性能向上にも貢献します。

iSIM導入によるコスト面でのメリットも大きく、物理的なSIMの取り扱いに関わるコスト(基板へのはんだ付け、電気チェックなど)、関税や物流経費の削減も期待できます。

さらに、通信モジュールとSIMを1つの部品として提供されるため、商流がシンプルになるためビジネス面での期待も高まっています。

iSIMとは? - IoTプラットフォームSORACOM
量産デバイスにおけるSIM/eSIMの課題 - IoTプラットフォームSORACOM

iSIMのセキュリティ

物理的な実装が簡略化されたiSIMがセキュリティが高いとされている理由は、セルラーモデム/SoC(System on Chip)SoC内に専用のセキュアチップが実装されていることに由来します。これにより、従来のハードウェアの中に認証情報を格納したSIMと同様、高いセキュリティが保たれています。

eSIMとiSIMの商流の違い

iSIMは、部品の調達における商流が代わるため、通信搭載のハードウェアを作りたい顧客にとって、部品調達上でのメリットもあります。

顧客がeSIMを組み込んだハードウェアを作ろうとする場合の商流を考えてみましょう。顧客がハードウェア製造会社に製造を依頼したとします。

ハードウェア製造会社は、ハードウェア開発に必要な部品を、部品メーカーから取り寄せます。基板、チップ、モデムなどの各種モジュールは、ハードウェア製造会社が、部品ベンダーから直接購入します。一方、eSIMを調達しようとすると、eSIMは通信事業者から購入することになります。また、複数の国で別の通信事業者の回線を利用する場合、利用する国によって通信事業者は複数にまたぐこともあり、その手配・契約は煩雑です。

そのため、eSIMを組み込んだハードウェアを作ろうとすると、他の部品の購入とは異なるプロセス・手間がが発生していました。(eSIMの活用については、SORACOMのような、グローバルに使えるセルラー通信の契約を提供するMVNO事業者が、eSIMを製造、販売するというプロセスをとることで、契約の煩雑さは軽減されてきています)

iSIMの場合は、eSIMの時に必要になっていた、通信事業者とのやりとりを省略して、セルラーネットワーク利用に必要な認証情報が書き込まれたiSIM対応モジュールを、モジュールメーカーあるいは商社から購入できるようになる商流が予定されており、部品調達を一本化できるというメリットがあります。

iSIMのビジネス活用に向けた動き

2021年7月にソニーセミコンダクタソリューションズ/Altair、KigenとソラコムがiSIM実証実験を発表しました。KigenはSIMベンダーとしてSIM OSの開発を行い、Altairはチップセットベンダーとしてセルラーチップセットを提供しました。

実証実験では、ソラコムとKigenがiSIM向けのプロファイルの開発を行い、Kigenとソニーがプロファイルの評価モジュールへの書き込みを行った後、ソラコムとAltairで各種性能評価を行いました。

その後、ソラコムは2023年夏に、年内のiSIM商用化と、iSIM対応モジュールである、Quectel 「BG773」と村田製作所 「Type 1SC」の提供開始を発表しています。(参考: 次世代SIMテクノロジー「iSIM」の商用化と対応モジュール提供を発表)
次世代SIMテクノロジー「iSIM」の商用化と対応モジュール提供を発表- IoTプラットフォームSORACOM
画像左:Quectel 「BG773」、右:村田製作所 「Type 1SC」

他の企業においても、英・VodafoneがドイツのBAYLとIoT向けにiSIMを使用することを発表しました。また、大手通信事業者やグローバルのMVNOも今後取り組んでいく、または対応済みであるというニュースが続いています。さらに、各SIMベンダーやチップセットベンダーのiSIM対応製品への取り組みも活発化し始めています。

iSIMの活用シーン

利用者にとっての変化は、デバイスの小型化や軽量化が実現できることです。ただし、デバイスの小型化のためには、iSIMだけではなく、基板やバッテリー、アンテナなど総合的な要素を考慮しなければなりません。

小型化デバイスの具体的な応用例としては、医療機器やウェアラブルデバイス、アセットトラッキング、各種GPSトラッカーなどが挙げられます。また、服のボタンや紛失防止タグ、イヤホンなど、さまざまな製品にiSIMを搭載することで、さらにデバイスの小型化がすすみ、新たな機能や利便性が生まれるでしょう。

つまり、iSIMの普及によりデバイスの小型化が進むことで、さらなる通信搭載デバイス・アプリケーションの可能性が広がることが期待されます。